「鍼って何の病気に効くんですか?」

2025/01/18 公開

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「鍼って何の病気に効くんですか?」

NHKの特集番組で鍼灸が取り上げられたり、WHO(世界保健機関)によってさまざまな疾患に鍼灸治療が適応すると認められるなど、鍼灸治療の科学的根拠が解明されつつあります。

そしてペットに対しても鍼灸治療を行うようになってきています。

私の動物病院での診療でも鍼灸治療を取り入れていますが、ある日、飼い主様から「鍼って何の病気に効くんですか?」と聞かれました。

この質問をいただいた時、「いろんな病気に利用できますが、、」と、うまく表現できず、ちょっと悔しい思いをしたことがあります。説明が長くなり詰まってしまってうまく言語化して表現できませんでした。

鍼灸は、体のバランスを整えることで自然治癒力に影響を与えます。

どうしてうまく言語化できなかったのかというと、鍼灸自体はそれ自身が病気を治すわけではなく、治療することで「体のバランスを整えて患者の自然治癒力を高め、自分自身で回復していくのを助ける治療(中医学の治療)」なので、特定の病気を治す、というのとはちょっと感覚が違うから、なのです。

なるべくわかりやすく鍼灸や漢方がどうして体にいい作用するのか? を知って欲しいと思い、今回書いてみました。

・鍼治療について

鍼治療は鍼でツボを刺激し、病気を予防したり治療したりするものです。

中国で4000年もの歴史をもつ「中医学」の体系的な理論に基づいた治療法の一つです。

日本でも、松尾芭蕉の「奥の細道」の序文に、三里に灸すゆるより、と記載があり、「足三里」というツボにお灸をすえて長旅での足の疲れをとり、食あたりなどを予防しながら旅していた、というものがよく知られています。

他にも鍼灸は昔から鎮静・鎮痛には大きな役割を果たしてきました。鍼治療が針麻酔に発展して1972年アメリカのニクソン大統領が訪中した際に紹介されて、世界中の話題になったこともありました。

(中医学の一部である)鍼治療は臨床経験医学の特徴を持ち、もともとは科学的に証明されていないものが多いのですが、最近では、鍼治療による疼痛緩和作用に関する論文や、神経ダメージからの鍼治療による回復に関する論文なども存在し、その有効性が(動物でも)科学的にも解明しているものがあります。

人には鍼灸師の国家資格取得者が、動物に対しては獣医師が施術できます。

近年、日本のペット動物にも鍼灸治療は行われており、当研究会の症例発表などでも、漢方と併用しながら効果が出ている報告を多く聞くようになりました。

現在の獣医療では、椎間板ヘルニアの神経麻痺の治療や、関節疾患の鎮痛作用、皮膚病や消化器病に対する治療、難病や腫瘍などで免疫異常に対する補助治療など、様々な方面で活用が広がっています。

・「鍼治療」は「中医学」の中にある

中国やアジアの様々な地域の伝統医療が「東洋医学」と呼ばれ、その中に「中医学」があり、「漢方」「鍼灸」、そして「薬膳」などの食事や生活指導が含まれます。

「中医学」には、「整体観(全体観)」「弁証論治」「未病先防」という重要な特徴があります。

①「整体観(全体観)」

中医学では病気そのものではなく、その個人・ペットを全体的に捉え、大自然と人間・ペットは同じルールで行動するもの、と考えていきます(天人合一)。自然現象は常に協調、対立、消長、転化を一定のルールのもとで繰り返す(陰陽五行論)と哲学的に体型づけられていて、陰と陽は常に調和が保たれており(中庸)、陰陽バランスが失われた状態が「病気」である、と考えます。

例えば、内臓臓器は組織や器官が互いに作用しあって生命活動を維持しているので、局部だけではなく、体全体を観察する必要があり、さらに気候や生活など自然界との関わりにも注目する必要がある、ということです。

そして陰陽バランスを整えるのに用いる方法として、「鍼灸」や「漢方」、「薬膳」などを利用します。

②「弁証論治」

西洋医学の「診断・治療」のことで、「四診」(望・聞・問・切)で情報を集め、病気の原因、性質、部位および邪気と正気の関係を明らかにして、どのような体質・状態かを判断(弁証)して、それに見合った治療方法を導きます(論治)。この時も、その病気だけを見ず、この個体や全体の情報を集めます。

③「未病先防」

健康と病気の間の「未病」の時に手を打って病気にさせない、という体質改善・調整医学ができる特徴があり、病気にさせない「養生」作用も重要視されています。鍼治療でも漢方でも治療効果以外に養生もできます。

これらの中医学の特徴があり、その中の鍼灸における生理学の理論は「気(き)」と「血(けつ)」の循環です。「気」は活動エネルギー、「血」は栄養分、と表現すると理解しやすいです。

「気」「血」が流れる「経絡(けいらく)」

「気」「血」が流れる「経絡(けいらく)」には経脈(けいみゃく)と絡脈(らくみゃく)があり、臓腑、器官から全身の各部位に至るまで互いに連絡し合いながら全身に分布しています。「経絡」は気血など栄養物質を送り、また「外邪」(風暑湿燥寒火)や体内で発生した「病理産物」(痰飲・瘀血などの体内失調)が伝わる通路でもあるので、病気の際に、病状が反映されると経絡を通じて五官(目舌口鼻耳)などに特有の病状が現れます。

バランスが乱れた部位に関連する経絡に刺激を与えます。

「ツボと経絡と臓腑の関係」を利用して、鍼灸などで経絡に刺激を加えることで、疾病を治療することができ、診断的なツボへの刺激(切経)で病状を知ることもできます。

このように、経絡のつながり方やツボの位置に重要な意味があり、ツボへの刺激の方法も、マッサージ、お灸、置き針、電気鍼など、弁証論治から導き出された方法を利用するのがいい、ということになります。

ということで、

鍼治療は・・・

ツボへの刺激で自然治癒力を高める治療であり、鎮痛効果や神経刺激効果などをはじめ、免疫力の向上ができる治療で、漢方を併用することで相乗効果が期待できる治療、となります。患者さんの全体をみて、身体の代謝を整えます。お灸やマッサージなども併用でき、おうちでマッサージをやってみるのも有効です。西洋医学との併用も有効です。

始めの質問には、

鍼治療を含めた中医学は、自然治癒力と自分自身で回復する力を高めるので、様々な病気に対応し、病気の治療にも養生にも利用できます。

というのが答えになります。

監修者:ひびき動物病院 / 岡田 響 先生 

日本ペット中医学研究会 https://j-pcm.com/

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