私が漢方を使う理由

2025/02/01 公開

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私が漢方を使う理由

「漢方ってどのくらい効くんですか?」と、たまに聞かれます。
『すぐ効くこともあるし、少し続けると効くこともあるし、あまり効かないこともある』『漢方薬の的中率は3割くらい』と言っている、ヒトのお医者さんもいます。

それってどうなの??って思いませんか?

私もはじめはえっ?って思いましたけれど、どうしてこういう表現をされたのか?

ぜひ知って欲しいので、少し一緒に考えてみてくださいね。

西洋医学での診察のしかたは・・・

通常、西洋医学では症状のある部位を中心にいろいろ検査して、病気が大体見つかったら、その病気に有効なお薬が利用されます。

例えば便秘の場合で考えてみます。便秘というと下剤や浣腸が浮かびます。下剤や浣腸などをすればとりあえず便通があるかもしれません。排便につながれば、お腹が痛いのとか負担が減らせて、その時は良くなるでしょう。けれど何かしらの病気の本体が別にある場合など、便秘になってしまう「体質」の場合は、それが変わらないと何度も繰り返すかもしれませんよね。

中医学の診察のしかたは・・・

中医学では、今そこに表れている症状だけでなく、その人のその時の体質診断をして、総合的にどうするのがいいかを考えていきます。「弁証論治」(べんしょうろんち)といいます。

同病異治という考え方

同じような病気、症状であっても、証(診断)が違えば治療も変わります。同じ病気であっても異なる治療を行うことから、「同病異治」(どうびょういち)」といいます。

便秘を例にすると、病気は同じでも、以下のように3つの体質が思い浮かびます。

1. 消化の悪いものを食べ過ぎて詰まってしまった、未消化物が溜まった。「食滞」という体質 

2. 加齢によって踏ん張る力、筋力が落ちてしまった、踏ん張れない。「腎気虚」という体質 

3. 潤い不足で腸が乾燥している、コロコロ便。「津液不足」という体質 

1〜3の場合は同じ便秘でも、病気になる過程(体質)が異なると、利用する漢方も種類がそれぞれ違ってくるのです。これが「同病異治」なのです。

このような理由で、便秘に効く漢方はなんですか?って聞かれた時に、すぐにこれですよ、とは言い難いのです。西洋医学的に確定診断がついたような病気でも、中医学的には使うお薬が違うことがある、というのは普通のことなのです。

そして体質は、ずっと同じではありません。

便秘が少し良くなったら、本来向き合うべき問題が見えてきたりすることもあります。そうしたら、また証(診断)を取り直して、その先の治療に必要な漢方を追加したり変更したりしていきます。環境の整備が必要な場合は、同時進行します。

なので、一度だけですっかり良くなる、ということだけではないことを理解いただけますでしょうか。

異病同治という考え方

一方で「異病同治」という考え方もあります。異なる病気、症状であっても、証(診断)が同じならば治療は同じ、という場合もあるのです。「異病同治」(いびょうどうち)」といいます。

以下の例では病名が異なる疾患について、体質も含めて説明します。

A: 消化器の病気(例えば下痢)。長期治療による疲れ、食欲減退、筋力不足による虚弱、代謝低下、むくみ

B: 循環器の病気(例えば心臓病)。手足が冷たい、動くと疲れる、息切れしたような呼吸、代謝低下、むくみ

この場合はAもBも「気虚(ききょ)」という証がとれ、病名は違っても使う漢方は同じになります。

気とは、体内を流れている栄養に富んだ物質で、体を元気に動かしたり、全身の機能活動のエネルギーで体を温めたり、外環境の寒さや病原菌の侵入と戦ったりする働きがあると中医学で考えられています。この気が不足してしまっている状態を、気虚(ききょ)という体質といいます。

中医学の考えで証をとる(診断)ということ

ここでちょっと意識してみて欲しいのですが、証をとる(診断を進める)には、その時のその人の体質を見極める必要があるため、患者さんと飼い主さんをよーく観察する必要があるのです。これから考えると、中医学を勉強して実施している獣医師は、患者さんを良くみてくれている先生かもしれない!とも思えるのです。

大谷翔平選手の打率

突然ですが、メジャーリーグの大谷翔平選手の打率ってどのくらいかご存じですか?

検索すると、2023年の成績が3割、日本ハムにいた時は通算で2.8割だそうです。ちなみにイチロー選手のメジャーリーグの時の打率は3.7割。3割っていう数字はスーパーヒーローの成績です。スーパーヒーローは、ホームランも打ちますが、三振もします。

個人的には、西洋医学と中医学を組み合わせることで、チームの中にヒーローになれるキャラクターが増えて、チームの成績(治療の成績)が上がるといいな、と期待します。

イチロー選手の名言

しかしながら、イチロー選手の名言「小さいことを積み重ねることが、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています。」のように、こういう努力も必要です。病気に向かっていくには、漢方やお薬だけ、など何かこれだけ、では足りない場合も多いでしょう。西洋医学も中医学も、利用できる選択肢は多いほうがいいですよね。

どんな症状でもこれがいいですよ、っていう魔法のお薬にはなかなか出会えませんので、少しずつ前進していきましょう。その積み重ねの一つで、中医学を用いていくことで、ペットを良く観察しながら進めていくことができ、何かしらの結果を導いてくれるようになるはずですよ。

みんなでがんばりましょうね。

監修者:ひびき動物病院 / 岡田 響 先生 

日本ペット中医学研究会 https://j-pcm.com/

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