人では、8020運動と言って、80歳になった時に20本以上の歯が残るように、お口の健康チェックやケアを行いましょうという活動が、日本歯科医師会により推進されているのをご存知でしょうか?これは、「歯が20本以上あると食生活に満足ができる、生涯自分で好きなものを食べて幸せに生きよう。」という願いが込められているのですが、実は根拠となる研究ではもっと興味深いことがわかります。
8020運動について
成人の歯の本数は親知らずを除いて28本ありますが、なぜ20本という数字があげられているのでしょうか。それはある調査結果に基づいています。
その調査は65歳の4425名を対象とし、歯と義歯の状況を質問調査後、4年間に渡り認知症の認定状況を追跡したというものです。この調査では、歯が20本以上ある人や、義歯を使用している人に比較して、歯がほとんどない義歯不使用の人の認知症発症リスクが最大1.9倍になることが示唆されました。さらにこの研究では、歯の本数と転倒リスクについても調査を行いましたが、歯が20本以上ある人に比較して、19本以下で義歯不使用の方は転倒のリスクが高くなることが示唆されました。
この研究結果により、「歯で物を噛む」ということが健康のために非常に重要であるということが示され、20本以上の歯を残そう。という運動が始まりました。
歯で噛むことの効果と大切さ
歯を残すことが大事な理由は、歯があれば「噛む」ことができるからです。続いて、「噛む」ことでもたらさる健康への効果について紹介していきます。
①唾液の分泌が促進される
よく噛むことで唾液がより多く分泌されますが、これにより消化吸収をスムーズにしたり、口内での細菌の増殖を防ぐ効果がありますので、歯周病予防・口臭予防に役立ちます。
②顔周りだけでなく全身の筋肉が維持される
噛むことにより顔周りの筋肉が維持され、顔の変形や機能の低下を防ぐだけでなく、呼吸や嚥下などの生理機能の低下を防げます。また、スポーツの世界ではしっかりとした噛み合わせは全身の力を発揮するためにも重要だと言われていますね。先の研究で転倒する人が増加したことも、全身の筋力低下が原因かと推測されます。
③脳への様々な刺激が送られる
食べる・噛むということは脳へ様々な刺激を送ります。味覚や嗅覚、食感の刺激は脳へ送られ、満腹中枢を刺激し満足感が得られやすくなったり、幸せホルモンである「セロトニン」の分泌を促進し、ストレスを解消することにもつながります。
この他にもがん予防効果、ドライマウスの予防など健康のために「噛む」ことでもたらされる効果は多岐に渡ります。
歯周病はただ治すだけじゃダメ?見えてきた動物医療の課題


動物では歯が抜けて当たり前、老犬の口は臭いもの。などと言われていた時代がかつてはありました。しかし現代では、歯周病は全身の病気を引き起こす。歯周病は治療すべき疾患なんだ。というように、大きく世間の認識が変わってきています。
しかし、先ほどまでご説明していた内容を踏まえると、歯周病の治療をして、悪くなった歯を抜いても、真の健康維持にはつながらないのではないか?という不安が残ります。健康のために本当に必要な事は、「歯周病の歯を放置すること」でも、「抜歯すること」でもなく、「噛むための歯を残して食事を楽しませる事」です。
そのためこれからの時代は、「歯を抜く治療」ではなく、「残す努力」が求められる事でしょう。
「歯を残す」ための努力
犬猫では、歯を失う原因の多くは歯周病です。歯周病は1歳から約8割の子が罹っていると言われ、永久歯になった7ヶ月齢頃から、日々のデンタルケアで歯周病が進行しないようにすることが必要です。
しかし残念ながらすでに進行した歯周病になってしまっている子や、ケアができないという方は、できるだけ早期に動物病院を受診することをお勧めします。少しでも早期に治療を行うことで、最終手段である抜歯処置をすることを避けられるかもしれません。また、地域に歯科の専門医がいれば、可能な限り温存治療やインプラント治療を相談して、歯を残す努力をされると良いでしょう。
歯周病と東洋医学
漢方薬の使用は予防から治療のどの段階でも有効です。唾液分泌機能の低下は血虚や津液不足、歯周炎や歯槽骨の病変が見られる段階では血熱や腎虚が関連しているかもしれません。対応した漢方薬を利用することで、症状の緩和・予防効果が期待できます。
また、食養生として手作り食や薬膳を利用することは、ドッグフードに比較して噛む回数を増やし、唾液分泌を促すことで歯周病の進行を遅らせる効果も期待できます。


最後に
健康な歯を維持することは健康寿命を伸ばす上でとても大切です。漢方や薬膳を利用する際には、是非「歯の健康」にも意識を向けてみてくださいね。