しかし、生物の「設計図」であるDNAを解析することで推定される人本来の寿命は、38歳であると言います。(参考文献1)実際の寿命は、この2倍以上ですので、研究の信頼性を疑いたくなりますが、そうではありません。この研究では、他にも10種の動物の解析を行い、寿命を推定しています。そして驚くべきことに、人間以外の動物では、解析により推定された寿命を、実際の観測で得られた寿命が大きく超えることはありませんでした。この研究結果から、人間が「異常な」寿命延長を果たした動物種であると考えられるというのです。
なぜ人は異常な寿命を獲得できたのか?
他の種と比較し、考えられないほどの寿命を獲得した理由、それは、現代医学の進歩と生活の質の向上のおかげです。事実、先進国とアフリカのような発展途上国では、2008年までは実に20歳近くの平均寿命の差があり、今でも差は縮まったものの、地域差で生じている医療レベルや生活の質の差がそのまま、平均寿命へと反映される結果となっています。
犬のDNA解析寿命と現代の寿命
では、お話を我々の愛してやまない動物たちに移しましょう。
先ほどご紹介した研究では、犬のDNAに刻まれた推定寿命は、20歳となっています(残念ながら猫科の情報はありませんでした)。現代の犬の平均寿命はおおよそ11歳から15歳という研究結果が発表(参考文献2)されており、前述のとおり犬はこのDNAの設計を超える長寿命化は達成されていません。
犬が人のように長寿命化する未来
犬は人類の最良の友である。という言葉もあるように、犬を人のように生活させる方が増えているように感じています。であれば必然、人と同じように長寿命化する犬が増えてもおかしくないのではないか?と期待してしまいます。
そのためには人と同じように、医療の発展と生活の質の向上が求められます。しかし残念ながら、動物医療が人と同レベルになることは、かなり先の未来であるか、あり得ないでしょう。だからこそ生活の質の向上により、長寿命化を目指すことが、人以上に重要です。そして、生活の質の向上のために、東洋医学を取り入れることは非常に有効です。
長寿のために必要な生活の要素・東洋医学のススメ
一口に生活の質、といっても、何が重要なのでしょうか。ここでは「臓器の寿命」という一説に注目してみたいと思います。(著;伊藤裕)
人の研究では、臓器それぞれには寿命(老化のスピードの違い)があり、消化管と腎臓が、より早期に老化し始める。ということが分かっています。そして、この二つの臓器を守ることが、長寿のために最も大事なのではないか?ということが、言われています。
東洋医学では、「腎」とは先天の精(生まれた時にもらう生命エネルギー、力)を蓄える臓器であり、老化と共に失われるとされています。また、消化管システムは東洋医学において「脾」であり、これは食べ物からのエネルギー(水穀精微)を取り込む臓器であり、後天の本(生まれた後の生命力の源)と言われています。
興味深いことに東洋医学でも、この二つの臓器を大切にすることが、長寿のための秘訣だと考えられているのです。
ではこれからさらに、具体的にできることを解説していきます。
腎と脾を守るために必要な要素
適切な食事
かつての人類・野生動物では、基本的に飢餓状態であることが多いです。しかし、現代では飽食の時代で、逆にカロリー過多、栄養素過多、添加物過多となってしまいがちです。必要な栄養素を必要な分摂取することにより、消化管での消化活動による負担を減らすことで、消化管の寿命延長が期待できます。
東洋医学においては、「食養生」という考えや「医食同源」という考えがあります。食べるものを厳選することは、体質を整えたり、腎や脾の失調を防ぐという意味でも、とても大切なことです。
適切な運動
適度な運動による体への負荷やストレスは、心拍数の増加や血流の増加をもたらします。その結果として、腎臓への血液の増加、血管の健康維持につながります。また、筋肉は第二の心臓とも言われており、筋肉量を維持することは、腎臓をはじめとした全身臓器の血流不足・負担を減らすことにもつながります。
鍼灸や漢方薬によるサポート
運動が難しくなった高齢期や、食欲・筋肉量がすでに衰えてしまっている場合などには、無理はせず鍼灸や漢方薬などの力を借りていきましょう。
鍼灸や漢方薬は病気でなくても利用でき、失われた精を補ったり、老化により生じる瘀血(血液のどろどろ、つまり)や痰濁(体液のどろどろ、滞り、痛み)といった病理産物による不調を取り除く作用が期待できます。
最後に
DNAの設計を超えて生きていける人間のように、大事な家族である犬猫さんたちが健康で長生きできるよう、日々の生活から質の向上を意識していけると良いですね。
参考文献1:
参考文献2:
https://www.nature.com/articles/s41598-022-10341-6
監修者:森のいぬねこ病院 芋沢院 / 榎原陸 先生