
たいていは「ああ…お歳ですもんねえ」という感じののんびりした会話が続きますが、中には
「年々性格が頑固になってきて、気に入らないとすぐキレるので困っています」
「もともと神経質でしたが、今は身体にさわるとか、抱っこしようとするだけでも怒って噛みつきます」
「お留守番が平気だった子なのに、泣き続けたりものを壊すようになって留守番が難しくなりました」
といった、性格の変化が生活上の問題になってしまい困っている…と相談されることがあります。

「頑固になる」「怒りっぽくなる」といった変化には、爪切りやトリミングの際に「あれ?前はすんなりできたのに…」と私たち病院スタッフも戸惑うことがあります。もちろんすべての子に当てはまる現象ではありませんが、もともと気の小さい子や気難しい性格の子はともかく、若いころは友好的だった犬さん、ねこさんが齢をとるにつれて次第に「頑固で怒りやすい性格」に変わってしまうケースは少なくないようです。
なぜ、歳をとると「頑固になる」子がいるのでしょうか?
まずは、変化の原因となる疾患が無いかどうかを確認

性格や行動の変化が気になったら、まずはかかりつけの病院で相談し、診察を受けてみてください。ホルモン異常が原因の「甲状腺機能低下症・亢進症」や「糖尿病」、背骨や関節が変形してしまう「変形性脊椎症・関節症」、脳の形質変化や腫瘍などが引き金となる「てんかん様発作」が関連する症状など、疾患特有の痛みや異常行動の影響で、まるで性格が変わったように見える場合があります。この他に心理的ショックが引き金となる攻撃性問題行動も考えられます。これらの疾患が関わっていないかどうかを、診察や各種検査でチェックしておきます。
この時点で原因となる疾患が見つかれば、まずこちらの治療から始めます。治療を始めたことで問題となる行動が落ち着いてくる子もいますので、ホルモン量をコントロールする薬、あるいは痛みを和らげる薬などを投与・服用してもらい、苦痛を取り除けるか、行動に改善がみられるか、を確認していきます。そうして特定の疾患を確認・除外したうえで、最後にいわゆる「加齢にともなう認知機能不全症候群(認知症)」の行動として対策を考える、という順番が一般的かと思います。
基礎疾患の確認ができたら、中医学的にも考えてみます。解決のヒントはみつかるでしょうか。
今回はこのことについて、中医学の視点で考えてみようと思います。

まず、「齢をとる」というのはどんなことでしょう?
私たち人間はその生涯で、乳幼児期→少年期→青年期→壮年期→老齢期と様々なステージを経験しますが、この成長し、生殖活動をし、世代を継いでいく、という過程において「精(せい)」という基礎物質が重要な役割を果たしています。
「先天の精」と「後天の精」とは
「精」には両親から引き継いだ「先天の精」と、飲食物から摂取する「後天の精」の2種類があります。このうち「先天の精」は加齢とともに消費されていくため、これを温存し、かつ補うために、食べ物から「後天の精」が補給されます。やがて齢をとって身体機能が衰え、精の補給が追いつかなくなると五臓六腑を養えなくなり、すべての精が尽きた時にその生涯を終える…と中医学では考えられています。
「五臓」のはたらきと「五臓」が衰えるとおこること
この五臓六腑の「五臓(肝・心・脾・肺・腎)」のうち、齢をとるとまず「肝」の気が衰えるとされます。ついで「心」、「脾」、「肺」、の順番に臓の気が衰えていき、最後に「腎」の気が衰えるのだそうです。この「腎」こそ「先天の精と後天の精を貯蔵する」役目を持つ臓であるため、「腎気が衰える=精を維持できなくなる」と考えられています。つまり齢をとる、というのは「五臓の気が衰え、精が減っていく過程」と言い換えられます。
生きるためのエネルギーである「気」の流れと自律神経をコントロールする「肝」、
→ 血液の循環と精神の安定を調整する「心」、
→ 栄養を身体に取り込んで消化し、気・血・津液を生み出す「脾」、
→ 呼吸機能をコントロールする「肺」、そして
→ 精を貯蔵する「腎」
それぞれの臓の持つ役割が、加齢とともに衰えることで、身体機能にさまざまな不調が現れるのです。

「腎」には先天と後天の精を貯蔵するほか、「骨組織の維持」や「水液代謝のコントロール」、呼吸のうち「吸気のコントロール」という役割もあります。さらに耳(聴力)や歯や髪の維持、大小便のコントロール、そして脳の機能維持にも関係する重要な臓です。この「腎」が弱ることで、関節炎が起きやすくなり、骨が変形したり、身体の水はけが悪くなって浮腫を起こしたり、汗をかきにくくなったりするとされます。この他にも、すぐ息切れする・耳が遠くなる・白髪や抜け毛が増える・歯が抜ける・尿漏れを起こしやすくなる…といった現象が腎気の衰えから起こると考えられています。
動物においての「腎」の衰えの影響とは
動物においても人間と同様の影響があると考えられます。腎気が衰えたことによって骨の変形や関節炎が起きれば、抱き上げた時の痛みや不安につながるため、触られることを嫌がるようになるでしょうし、散歩や遊びをためらうようになるだろうと推測できます。また聴力が落ちたことで、前に怖がっていた音が聞こえなくなって(見た目上は)気にしなくなるか、逆に聞こえづらくなったために、今まで五感をフル活用して刺激にそなえていた子が「いきなり触られる」ことに心底びっくりしてしまうようになった、と説明できます。
「腎」が衰えるとこんなことも・・・
さらに腎は「恐怖」と「驚愕」の感情に関わる臓と考えられています。通常は「怖がりすぎたり驚きすぎたりすると腎が弱る」という順で説明されるのですが、加齢によって腎気が弱ったために、今まで以上に恐怖を感じたり、ささいなことにびっくりしやすくなる、とも考えられます。このため、今までは平気だった(もしくは我慢していた)飼い主さんの行動や物音が、動物にとっては耐えがたい恐怖や驚愕の対象になったり、留守番している時間(飼い主さんの気配がない時間)が不安で不安でしかたなくなったり…その結果、何とか自分を守ろうとして、いわゆる「頑固」な態度をとるようになったのかもしれませんね。
中医学診療の考え方
中医学ではまず、四診を行ってその子の証を考えます。上記の状況をみると、そのまま「腎虚」から「腎精不足」、痛みは「瘀血」や「気血両虚」、また臓のつながりから「肝腎陰虚」、「肝鬱気滞」、「肝火上炎」、「心神不安」…などの証が立てられそうです(単語が難しいので雰囲気だけ感じてください)。同じような行動をとる子でも、証はその子ごとに異なります。もしくは全く違う行動をしているのに同じ証になることもあります。
「腎」が衰えている子はその「腎を補助する」、加えて
「熱」が要因の子は「冷ます」、
「乾いてつらい」子には「潤いを与える」、
「心がふわふわして定まらない」子は「心を着地させる」、
「詰まり」や「栄養不足」が原因の子は「詰まりを解消する」「気血をおぎなう」
…平たい言葉で表現すると「え?そんなあっさりしたこと?」という表現になりますが、一般的な治療薬では手の届かないこういった根源的なアプローチができるのが中医学です。丁寧に弁証をして、基礎疾患も考慮し、その子にあった漢方処方を組み立て、もしくは鍼灸施術が適応できるかどうかなどを検討していくことで、メインの治療ではなくとも、症状や行動をコントロールする「強力なサブ治療」ができると思います。
まとめ
人間も動物も、すべての生き物は等しく齢を重ねていきます。超高齢化社会の時代と呼ばれて久しく、医療の発展や生活環境の改善によって人もペットも長く生きられるようになりましたが、悲しいことにその「代償」が物理的にも精神的にも現れています。「老害」という言葉も生まれてしまいました。
齢をとったペットの姿を見ることや、性格が変わってきた子と一緒に生活するのがつらくなる瞬間があるかもしれません。こんなとき、一般的な動物医療だけでなく、中医学の考え方も取り入れてみてください。加齢から始まったペットの行動や性格の変化に、無理をしすぎず対応できる方法を一緒に探しながら、「齢をとるまで一緒にいられたっていうことだね!」と思える生活を送る…中医学でお手伝いできたら幸いです。

